同じ M1 だけれど、全く別物。
M1 搭載で iPad Pro 12.9 インチモデルはどう変わるのか?
2021 年 4 月 21 日 (日本時間) で新作が発表された iPad 12.9 インチモデル。Mac 専用かと思われていた SoC である Apple M1 を搭載している、まさかまさかの構成でのお披露目となりました。
M1 がいかに凶悪な性能であるかについて、当ブログでもこれまでに散々お伝えしてきました。
M1 を手に入れた iPad Pro は、当然ながら処理スピードが大幅にアップ。Apple 曰く、M1 の 8 コア CPU が最大 50 パーセント速いパフォーマンスを、8 コア GPU がグラフィックス性能を最大 40 パーセント高速にさせるとのこと。これにより、複雑なARモデルを構築したり、コンソール級グラフィックスを駆使したハイフレームレートのゲームをプレイしたり、あらゆることが思いのままに可能になるそう。
処理性能向上に目が行きがちですが、何より大きな恩恵を受けるであろう項目が、バッテリーです。
ボクは iPad Pro 12.9 インチ (2018) を所持しており、購入当初はその圧倒的なバッテリーの持ちの良さに感動を覚えていました。ところが、M1 MacBook Air を体験した後に iPad Pro を使用すると、「あれ、iPad Pro のバッテリー持ちしょっぼ……」と感じてしまう体になってしまいました。それほどまでに、M1 の省電力性が凶悪であるというわけ。
M1 の搭載によって、iPad Pro でもこのとてつもないバッテリー体験が可能になることでしょう。
M1 iPad と M1 MacBook、どちらが優れたモバイルデバイスなのか?
Apple が有する 2 大モバイルクリエイティブプロダクト、iPad と Mac。これまでも、散々どちらを買うべきなのか議論が各所でなされてきました。両者に M1 が搭載された今、改めて考察してみましょう。
まずは iPad と Mac、それぞれの違いを表にまとめてみました。
M1 iPad Pro 12.9 | M1 MacBook Air | M1 MacBook Pro | |
OS | iPadOS | macOS | macOS |
ディスプレイ | Liquid Retina XDR 2,732 x 2,048 | Retina 2,560 x 1,600 | Retina 2,560 x 1,600 |
画面タッチ | ○ (Apple Pencil 対応) | × | × |
5G 対応 | ○ (セルラーモデル) | × | × |
ロック解除 | Face ID | Touch ID | Touch ID |
スピーカー | x 4 (ドルビーアトモス再生対応) | ステレオスピーカー (ドルビーアトモス再生対応) | ハイダイナミックレンジステレオスピーカー (ドルビーアトモス再生対応) |
マイク | スタジオ品質のマイク x 5 | x3 | スタジオ品質のマイク x 3 |
フロントカメラ | 超広角カメラ (センターフレーム対応) | 広角カメラ | 広角カメラ |
リアカメラ | 広角、超広角カメラ、LiDARスキャナ | – | – |
ポート数 | Thunderbolt x 1 | Thunderbolt / USB 4 x 2 | Thunderbolt / USB 4 x 2 |
サイズ | W 219.4 x H 280.6 x D 6.4 (mm) | W 304.1 x H 212.4 x D 16.1 (mm) | W 304.1 x H 212.4 x D 15.6 (mm) |
重量 | Wi-Fi: 682 g / セルラー: 684 g | 1,290 g | 1,340 g |
iPad Pro はクリエイティブ特化デバイスということだけあって、数値だけ見るとほぼ全ての項目において圧倒的です。
これらの数値が何を意味するのか、以降で解説していきます。
M1 iPad の強み
タッチ可能なディスプレイ
iPad サイドでまず注目すべき点は、なんといっても画面タッチ可能というところでしょう。指でのタッチはもちろん、Apple Pencil をはじめとするスタイラスペンによる操作が可能です。
これによって、手書きのメモやイラスト制作が可能になる圧倒的な優位性を獲得しています。講義ノートの作成や、簡単なイラストであれば iPad 一台あれば何不自由なく過ごすことができるようになります。
かつて文房具マニアで万年筆大好きだったボクも、iPad を手に入れてからというものほぼアナログで何かを書くという行為をしなくなってしまいました。
イラスト制作の視点では、スタイラスペン使用時の感圧段階値が気になるところです。iPad Pro の感圧段階は Apple 公式から発表がないものの、サードパーティ製スタイラスペンの仕様を見る限り、2048 段階であると考えられます。
これはかつてのハイエンドペンタブレット (Intuos 4) と同程度の数値ですから、必要十分な数値であると言えるでしょう。
ただし、ペンタブレットの代表メーカー Wacom 社の最新液晶タブレットの感圧段階は 8192 段階と、iPad Pro の数値 (推測値) の 4 倍を誇っています。流石に特化型デバイスには敵いません。
とにかく綺麗なディスプレイ
引き続きディスプレイに焦点を。まずはわかりやすい 2,732 x 2,048 ピクセルの解像度。これは MacBook を凌ぎ、同サイズ帯の液晶ペンタブレットと比べてもとてつもなく高い高解像度です。
当然ながら、解像度が高いほど細かい部分までくっきりとみえ、画面が綺麗だと感じられます。
さらに iPad Pro は Liquid Retina XDR を搭載。これは Apple が発売している 50 万円以上するデスクトップ用モニタ Pro Display XDRと同様の技術です。1,000,000 : 1 のコントラスト比、最大 1,600 ニトの輝度ととかいうとんでもない化け物です。この数値は、ついに搭載されたミニ LED によって実現されています。
数値だけ出されてもパッとしませんので、わかりやすく比較すると、6 万円する市販の 4K モニタは 1,000 : 1 のコントラスト比、最大 350 ニトです。つまり、コントラストは 1,000 倍、輝度は 5 倍もすごい。桁が違いすぎてこれもうわかんねぇな。
その他たくさん詰め込まれた機能たち
スピーカーは MacBook Pro よりも多い 4 機搭載し、さらにドルビーアトモスに対応。ドルビーアトモスは簡単にいえば音が立体的に聞こえる仕組みで、主に映画館や一部ホームシアターに導入されている技術です。前述のディスプレイの鮮明さと合わせて、映画をはじめとする映像作品を見るときには圧巻でしょう。
また、フロントカメラにも超広角カメラが実装されました。自動でパンを調整したり、画角の拡大・縮小をしてくれる機能付き。FaceTime などの各種ビデオ会議アプリに対応しているとのことですから、「なんかこいつの Zoom ミーティングすげーんだけど!」感を演出できるのかもしれません。
そして Mac にはないリアカメラと 5G 機能。iPad はリアカメラを使って書類のスキャンができるため、紙との親和性がとても高いです。今回から LiDER も搭載され、AR を使用した技術も一層楽しむことができるようになりました。5G は iPhone 12 と異なり、ミリ波に対応。日本でも問題なく使用できます。ザクとは違うのだよ、ザクとは!
ペンを多用するなら iPad、そうでないなら MacBook がおすすめ
M1 iPad Pro 12.9 インチがいかに化け物デバイスであるかご理解いただいたところで、本題の結論をお伝えしましょう。果たして M1 iPad と M1 MacBook はどちらが「買い」なのか。
それは、あえてここまであえて触れてこなかった「OSの違い」に答えがあります。残念ながら、iPad Pro がいくら高性能であるといえ、搭載された OS が所詮 iPadOS。タブレット向けのものなのです。これがとにかく足を引っ張ります。
Smart Keyboard Folio や Magic Keyboard を使用することで iPad を PC ライクな使い心地にカスタムすることはできますが、それでも Mac と比べると操作性は一定以上劣ります。iPad 特有の軽さも、これらアクセサリーをつけることで MacBook と同等かそれ以上にまで重量が増えてしまうのも悲しいところ。
また、使用できるアプリケーションも iPad 版と Mac 版を比べると、ほとんどの場面で Mac 版の方が高機能で、優秀です。
つまり、iPad OS 14.5 が iPad の最新 OS である 2021 年 4 月現在において、PC ライクな用途を想定しているならば、圧倒的に M1 MacBook を購入すべきです。
その逆に、MacBook では絶対にできない画面タッチ機能を有効活用する用途。例えばノートをとる、イラストを描くなどがメイン用途になる場合は、iPad を購入すべきという結論になります。
結局、M1 が搭載されようがされまいが、その他の機能がとてつもなく強化されようが、出される結論は以前と変わらなかったわけです。だって iPad OS、不便なのだもの。
じゃあノートやイラストのために iPad Pro が必要なのかというと、若干これもオーバースオペックな気がしないでもありません。120 Hz を比較的有効活用できるイラスト用途ならまだしも、ノート用となると尚更です。
ボクならもっとコンパクトで安価な iPad Air、もしくは MacBook との相性を考えて、iPad mini も選択肢に入ってきます。
iPad Pro は確かに Pro 向けなスペックを有していますが、でも結局なんのプロユースに向いているのか、イマイチはっきりしないデバイスになってしまっています。
もし現時点で使用用途が明確に決まっていないのであれば、今年 6 月に開催予定の WWDC (Apple 社が毎年開催する開発者向けの会議) で、iPadOS に大幅なテコ入れが入ることを確認してからでも、M1 iPad Pro の購入検討は遅くないかもしれません。