2022 年現在、主要な PC 用の OS は 4 つ存在しています。「Windows」「Chrome OS」「macOS」「Linux」。
シェアを見れば Windows が圧倒的な王者。一方で Chrome OS が急速に普及しつつあります。そして残るのがマイナーな Mac や Linux。
そんなマイナーな Mac。わざわざ使う人がいるのはなぜなのでしょうか。それは各業界の歴史と強く紐づいてもたらされた結果のようです。
世界の PC 市場における Mac のシェアは 10 % 未満
歴史を振り返る前に、まずは 2022 年現在の Mac 市場について整理しましょう。
シンガポールの市場調査企業 Canalys は全世界における 2021 年の PC 市場出荷台数について、Mac は市場全体に対して 8.5 % のシェアであると発表しました。
この発表によれば 2021 年は 3 億台を超える PC が出荷されたとのこと。Apple はそのうち約 3,000 万台の Mac を出荷したことになります。
また、アメリカの市場調査企業の International Data Corporation (IDC) と IT 系ニュースサイトの 『GeekWire』によるレポートで、2020 年時点で Chromebook が Mac のシェアを超えていると発表しています。
PC 用 OS としては新参である Chrome OS にすら、Mac は遅れをとる結果になっています。
以上の結果から超大雑把に考えると世の中の 75 % が Windows。15 % が Chromebook。そして残りの 10 % が Mac であると考えられ、Mac ユーザーというものはとんでもなくマイナーな存在であるということになります。
「デザイナー、エンジニアに好かれる Mac」は本当か?
Mac といえば「デザイナーが使うもの」「エンジニアが使うもの」だとイメージする人が多いでしょう。
十数年までは「テレビ制作」や「音楽スタジオ」でも Mac が用いられることも多く、「クリエティブといえば Mac」というイメージは根強いものだと思われます。
なぜこのようなイメージが強いのか。それは過去、実際にクリエイティブ環境が軒並み Windows ではなく、Mac に偏っていた事情があるためです。
デザイナーが Mac を使うようになった理由
まずデザインを例に見てみましょう。パソコンで印刷物を作る DTP が普及し始めた 1990 年代。実は DTP を扱うソフトウェア自体はこのときすでに Windows、Mac 共に存在していました。鍵を握ったのが、「PostScript」の存在です。
PostScript はAdobe 社が開発したプログラミング言語で、いわば PDF の前身のようなもの。デザイナーと印刷工場とのデータのやり取りは、この PostScript を用いて行われていました。
そして、PostScript に対するサポートが手厚かったのが Mac。そのため印刷工場も Mac を中心とした設備を構築。結果として、DTM デザイナー界隈で Mac ユーザーが増えたというわけです。
エンジニアが Mac を使うようになった理由
続いてエンジニアの例も見てみましょう。エンジニアと言っても広いので、ここではソフトウェアエンジニアとしましょう。彼らが Mac を好んで使われていたのは、UNIX 環境のコマンドライン操作ができるからです。
UNIX とは、Linux や macOS の元となるオープンソースの OS です。PC 市場でシェアがイマイチな Linux ですが、実はサーバー OS シェアにおいては 7 割近い圧倒的な数字を持っています。同じ UNIX をもとに作られた Mac は、Linux と同じコマンドを用いることができます。
直接 Linux を使えばいいじゃんと言う話になりそうですが、そうにはならなかったようです。Linux は Ubuntu や CentOS など、Linux の中でもさらに環境が細分化されます (「ディストリビューション」といいます)。そのためディストリビューションが違うと特定のソフトウェアが動作しなかったり、出回っている情報が少なかったりといった不具合がありました。
Mac は多くの環境に対応でき、また情報も多かったことから Mac 向けの周辺環境やツールが徐々に充実し、Mac が主流になりました。
その他同様に、テレビ制作ではお馴染み動画編集ソフトの「Final Cut Pro」が、音楽スタジオでは DAW の「Pro Tools」が使われており、どちらも Mac でしか動作しなかったため Mac が主流になっていました。
Mac の優位性はすでに無い
歴史を振り返ると、クリエイティブの環境においてやはり Mac が主流な時期がありました。理由はいずれも Mac じゃなければできないことが多かったから。だからこそ Mac が使われていたわけです。
では、2021 年になった今になってみてはどうでしょうか。
時代は変わり、上で挙げた「Mac でしかできなかったこと」のほとんどが、Windows でもできるようになりました。さらに Windows は作業内容に応じた適切なスペックが選択でき、また OS の特徴として汎用性が高いため、むしろ優位性は Windows 側に移ったと言っても過言ではありません。
実際に現場でも Mac 一辺倒ではなく、Windows を使用するクリエイティブ企業も多数見てきました。
Mac が未だに使われるのは、現場に慣れている人が多いから
それでもやはり、未だにクリエイティブ系企業では Mac を採用している割合がそれなりに高いです。
Windows の方が優位性があると言うのに、なぜ Mac を使うのか。それは Mac での作業に慣れているユーザーが多いからです。
特に日本の企業では、新卒採用 → OJT による研修で徐々に社員を戦力化していきます。このとき Mac による作業に慣れている社員が多い企業では、Mac を用いて研修が実施され、結果 Mac 使いの社員が育成されます。
そして新たな新卒社員が入社してくると、再び Mac を用いた研修が実施され……と、代々 Mac のスキルが受け継がれ、Mac がメインな環境が続いていくわけです。
個人クリエイターは今後も Mac が使いやすい理由とは
時代が進むにつれて、コスト面などから今後はクリエイティブ系企業でも Windows が使用される割合が徐々に増えていく可能性は十分に考えられます。
では個人ユーザーでも同じ傾向になるのでしょうか。これについては、No だと考えられます。その理由は大きく 3 つ。
1. デフォルトで使えるフォントの豊富さ
まず挙げられるのが Mac 特有のフォントの豊富さです。Mac には本来有料のフォントが多数プリインストールされています。Helvetica、Bodoni、ヒラギノ etc…
デザインのためにこうした有名どころのフォントの用意はもはや必須ともいえます。しかしながら Windows で使うためにはヒラギノだけでも年間 5 万円近い課金が必要になります。
企業ならライセンス契約をして当たり前な一方で、個人となると必ずしもそう言うわけにはいきません。
気軽にデザインを始められると言う意味で、個人にとって今後も Mac は有力な選択肢のうちの一つになります。
2. macOS 特有の優位性
先述の通り、Mac は Linux と同じ UNIX ベースに作られた OS です。Windows に対してこの優位性は揺らぐことはおそらく今後もないでしょう。
また、日本のスマートフォン市場で圧倒的なシェアを誇る iPhone 向けのアプリも、Mac でなければ作ることを許されません。
作りたいものが明確になっているエンジニアにとって、今後も Mac をパートナーにせざるを得ない状況は続きそうです。
3. Apple Silicon による圧倒的なコスパ
2022 年現在、最安の MacBook Air は 10 万円台前半から購入することができます。そしてその MacBook Air には初代 Apple Silicon の M1 が搭載されています。
M1 の性能は、発売から 2 年近く経過した今でも同じ 10 万円台前半で購入できる Windows PC ではとても再現できないほど高水準にまとまっています。
デザイン制作目的で購入する場合、先述のフォントと合わせると実質 5〜6 万円で手に入ると言っても過言ではありません。
このコスパの高さを活かして、Mac は今後企業のプロフェッショナル向けから、個人向け用 PC の色合いが一層強くなるかもしれません。
個人クリエイターじゃないなら Mac を使う意味はないのでは?
汎用性に欠ける、ゲームはできない、スペックに融通が効かない、シェアも低い。悪口を言おうと思えば無限に湧いてでてくる Mac。では Mac を使う意味なんてないのでしょうか?
これはもう個人的な見解になってしまいますが、答えは No です。ボクはかつて超がつくほどの Windows 信者でした。ところが、今ではなんと超がつくほど Mac 信者になってしまいました。
理由は単純で、使いやすいから。詳細は過去記事にまとめています。
とはいえ結局シェア 10 % 未満なので、Mac を使いやすいと感じる感性もマイノリティである可能性はそれなりにあります。
Windows で PC に慣れて、その後用途に合わせて Mac を試す。この流れが最も理想的でスムーズに PC を使いこなすことができるようになれるかもしれません。