「趣味は何ですか?」と聞かれて「ゲーム」と答えると、少し前までは「お金がかからなくていいですね」と返されることが多かったように思います。
実際、ゲーム機を 1 台買ってしまえばソフト数本で何百時間も遊べます。映画やライブ、旅行といった趣味と比べれば、時間あたりの娯楽コストは圧倒的に安い。それが、かつての常識でした。
しかし 2026 年の今、その認識はもう通用しないのではないでしょうか。私は徐々にそう感じてきています。
ハード価格の急騰

まず、ゲーム機本体の価格がここ数年で大きく上がりました。
2017 年に初代「Nintendo Switch」が発売されたとき、価格は税込約 32,000 円でした。それが 2025 年に登場した 「Nintendo Switch 2」は、発売時点で約 50,000 円。さらに 2026 年 5 月の価格改定で約 60,000 円にまで引き上げられています。8 年で約 1.9 倍です。
PlayStation 陣営はさらに顕著です。2014 年に「PS4」が約 43,000 円で発売されたのに対し、現行の「PS5」通常モデルは値上げ後で約 98,000 円。上位機種の「PS5 Pro」に至っては約 138,000 円と、もはや『ゲーム機』という言葉から想像する価格帯を大きく超えています。
任天堂株式会社 ニュースリリース :2026年5月8日 – 当社商品およびサービスの価格変更に関するお知らせ|任天堂
https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2026/260508.html
PS5®、PS5®ProおよびPlayStation Portal™ リモートプレーヤーの希望小売価格改定のお知らせ – PlayStation.Blog 日本語
https://blog.ja.playstation.com/2026/03/27/20260327-ps5-price-update-o/
その上ゲーム機は一家に 1 台あればいい、というのも過去の話です。特に携帯ゲーム機の系譜を継ぐ Nintendo Switch シリーズでは、「一人 1 台」が基本になっています。子ども 2 人に Nintendo Switch 2 を買い与えるだけで約 12 万円からのスタート。家族 4 人なら、本体だけで 20 万円を超えてもおかしくありません。
ソフトも周辺機器も値上がりしている

ハードだけではありません。ソフトの価格もじわじわと上昇しています。
2017 年当時、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は税別 6,980 円でした。現在のフル プライス タイトルは 8,000 円から 10,000 円が一般的で、1.3 倍から 1.5 倍ほどの値上がりです。1 本 1 本の差額は小さく見えるかもしれませんが、年間に数本買えばその差は無視できません。
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 3月3日発売決定! | トピックス | Nintendo
https://www.nintendo.com/jp/topics/article/807d3632-cd86-11e6-9aaf-063b7ac45a6d
Nintendo Switch 2 ソフト『マリオカート ワールド』は本日発売。 | トピックス | Nintendo
https://www.nintendo.com/jp/topics/article/cd3f81a7-42ac-4d1f-a09f-7c5ff76bd253
周辺機器のコストもバカにならない。コントローラー 1 つで 1 万円前後は当たり前。ゲームをより快適に楽しもうとモニターやヘッドセット、ネットワーク環境を整え始めると、出費はどんどん膨らんでいきます。その上、オンライン プレイには月額や年額の課金まで必要とまできたもんだ。
なぜここまで値上がりしたのか
ゲーム機の値上がりの理由と背景

こうした値上がりは、メーカーが利益を増やそうとしているから、という単純な話ではありません。背景には複数の構造的な要因があります。
まず円安の影響。ゲーム機は半導体、メモリ、ストレージ、ディスプレイ、バッテリー、基板部品などを世界中から調達しており、米ドル建て、またはドル相場の影響を受けるものが少なくありません。円の価値が下がれば、同じ部品を仕入れるだけでもコストが膨らみます。
任天堂の古川社長も Nintendo Switch 2 の価格改定について、為替や部材価格の高騰といった市場環境の変化が中長期的に続くと見込んだ上での判断だったと説明しています。
なぜ「Nintendo Switch 2」は1万円値上げに? 任天堂の古川社長が明らかに – ITmedia Mobile
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2605/12/news139.html
Nintendo Switch 2値上げ、初代も約1万円増 5月25日から 来期は販売台数減を予測、オンラインサービスも値上げ | テクノエッジ TechnoEdge
https://www.techno-edge.net/article/2026/05/08/5047.html?utm_source=chatgpt.com

次に、半導体をはじめとする部品コストの上昇です。ゲーム機が世代を重ねるごとに高性能化すれば、搭載するチップやメモリーの単価も上がります。
しかし近年の値上がりは、単なる高性能化だけでは説明がつきません。その裏には、生成 AI ブームという巨大な構造変化があります。
世界中のテック企業が AI データ センターの建設に莫大な投資を行っており、AI の学習や推論に不可欠な高帯域メモリー (HBM) の需要が爆発的に増加しています。
メモリー市場の大半を占める Samsung、SK Hynix、Micron の 3 社は、限られた生産ラインを利益率の高い HBM に優先的に割り当てており、その結果、ゲーム機やスマートフォンに使われる汎用的な DRAM や NAND フラッシュの供給が圧迫されています。
AI Demand Resets Memory Market Priorities, Tightening NOR Flash Availability
https://semiengineering.com/ai-demand-resets-memory-market-priorities-tightening-nor-flash-availability/
Samsung and SK hynix warn AI-driven memory shortages could last until 2027 and beyond, as HBM demand explodes — customers already reserving supply years ahead, while the wider DRAM market begins to tighten | Tom’s Hardware
https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/samsung-and-sk-hynix-warn-ai-driven-memory-shortages-could-last-until-2027-and-beyond-as-hbm-demand-explodes-customers-already-reserving-supply-years-ahead-while-the-wider-dram-market-begins-to-tighten
いわば、AI がメモリーを『喰っている』のです。
影響は数字にはっきりと表れています。Nintendo Switch 2 に搭載される RAM モジュールの価格はわずか 1 四半期で約 4 割上昇したと報じられており、PC 向けの DDR5 メモリーも 2025 年秋から数カ月で数倍に高騰しました。
【特集】メモリ価格が2.8倍に爆上げ。SSDも合わせて高騰中。それでも今買ったほうがいい理由とは? – PC Watch
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/2071150.html?utm_source=chatgpt.com
任天堂は Nintendo Switch 2 について、メモリーを中心とする部材価格の上昇と関税措置を合わせて約 1,000 億円のコスト増を見込んでいると明かしています。ゲーム業界は AI ブームの当事者ではないにもかかわらず、その余波をまともに受けている格好です。
ソフトの値上がりの理由と背景

そしてソフトの値上がりには、開発費の高騰が大きく関わっています。
イギリスの競争・市場庁 (CMA) が Microsoft/Activision Blizzard の買収審査で公開したレポートでは、ゲーム業界の市場動向や開発費などを分析する業界調査会社である IDG の 2021 年時点調査を引用し、「AAA タイトルの開発費がわずか 5 年前には 5,000 万ドルから 1 億 5,000 万ドル規模だったのに対し、2024 年から 2025 年発売を見込む新作では 2 億ドル以上の予算が承認されている」と報告しています。
さらに同レポートでは、『Call of Duty (コール オブ デューティ)』シリーズの 1 作あたりの開発費が 3 億ドルを超えていること、『Grand Theft Auto VI (グランド・セフト・オートVI)』も 2 億 5,000 万ドル以上とされていることが明かされました。
あるパブリッシャーは主力フランチャイズの開発費が 6 億 6,000 万ドル、マーケティング費が約 5 億 5,000 万ドルに達したと回答しており、1 本のゲームに 10 億ドル以上が投じられるケースすら現実のものとなっています。
つまり、いまや AAA タイトルは「数十億円」ではなく、「数百億円」単位の投資になりつつあります。場合によっては、開発費と宣伝費を合わせて 1,000 億円規模に達するケースすらあるのです。
これだけの開発コストを回収するためには、ソフトの販売価格を引き上げざるを得ません。実際、米国では AAA タイトルの標準価格が 60 ドルから 70 ドル、さらには 80 ドルへと段階的に引き上げられてきています。日本でも同様に、販売価格の引き上げや DLC、豪華版などの収益化の強化が進んでいるのです。
重要なのは、これらの要因がいずれも一時的なものではないということ。円安も、部品コストの上昇も、開発費の膨張も、短期間で解消される見通しはありません。
つまり、ゲームの価格が今後元に戻る可能性は低く、むしろさらに上がっていく方向にあるといえるでしょう。
見落とされがちな「電気代」というランニング コスト

ゲームのコストというと、ハードやソフトの「買い切り」の出費に目が行きがちですが、忘れてはならないのが電気代です。ゲームには「遊ぶたびにかかるコスト」もあるのです。
ゲーム機は世代を重ねるごとに高性能化しており、それに伴って消費電力も増加しています。PS4 (通常モデル) の最大消費電力が約 165 W だったのに対し、PS5 は約 350 W とスペック上はおよそ 2 倍です。実際のゲーム プレイ中の消費電力は 200 W 前後とされていますが、それでも PS4 より明らかに電力を食います。上位モデルの PS5 Pro では最大 390 W にまで上ります。
ゲーミング PC の世界はさらに顕著です。ハイ エンドのグラフィック ボードは単体で 300 W から 400 W 以上を消費するモデルが珍しくなく、CPU やその他のパーツを合わせたシステム全体では 500 W から 700 W に達することもあります。毎日 3 時間プレイすれば、ゲーミング PC だけで月に 40 kWh 以上を消費する計算です。

そこに追い打ちをかけるのが、電気料金そのものの高騰です。
東京電力の「従量電灯 B」を例にとると、2023 年 6 月の料金改定で電力量料金が大幅に引き上げられ、もっとも多くの家庭が該当する第 2 段階の単価は改定前の約 26 円/kWh から約 36 円/kWh へと、およそ 1.4 倍に跳ね上がりました。さらに再エネ賦課金も 2020 年度の 2.98 円/kWh から 2026 年度には 4.18 円/kWh へと年々上昇しています。
これが何を意味するか、単純な計算をしてみましょう。
PS5 でゲームを 1 日 3 時間、毎日プレイしたとします。消費電力を実測に近い 200 W とすると、月の消費量は約 18 kWh。電気料金の目安単価を 31 円/kWh とすれば、月の電気代は約 560 円です。年間で約 6,700 円。
PS4 時代の電気料金単価と消費電力で同じ計算をすれば、おそらくこの半分程度で済んでいたはず。ゲーミング PC のハイ エンド構成なら、この数字はさらに数倍に膨らみます。
高性能なハードがより多くの電力を消費し、その電力の単価自体も上がっている。つまり「遊ぶたびにかかるコスト」が二重に膨らんでいるのです。買って終わりではなく、遊ぶたびにメーターが回り続ける。ゲームのコスパを論じるなら、このランニング コストも計算に入れるべきでしょう。
プレイ時間が少ない人ほど割高に感じる

「遊ぶほど電気代がかさむなら、たくさん遊ぶのをやめればいいのか。」
残念ですが、話はそう単純ではありません。ゲームのコスパが良いとされてきた最大の根拠は、そもそも『長時間遊べること』にあったからです。100 時間遊べるゲームを 7,000 円で買えば、1 時間あたり 70 円。映画館の 2 時間 2,000 円とは比較にならない安さです。
しかしこの計算は、実際に長時間プレイする人にしか成り立ちません。社会人になって、あるいは子育てが始まって、月に数時間しかゲームに触れない人にとっては、6 万円のハードに 1 万円のソフトを買って数十時間しか遊ばないという状況は珍しくないはずです。
そうなると時間あたりのコストは跳ね上がり、「コスパのいい趣味」どころか、むしろ金持ちの趣味とすら感じられてきます。
PC とスマホという『逃げ道』も、独占タイトルが立ちはだかる

一方で、ゲーム機を買わなくてもゲームを楽しむ手段は増えています。
スマートフォンでは基本無料の高品質タイトルが次々とリリースされていますし、PC ゲームも『Steam』 のセールを活用すれば驚くほど安く大量のタイトルを遊べます。ゲーム機よりもコスパよくゲームを楽しめる環境は、むしろ整いつつあるのです。
ところが、ここに「独占タイトル」という壁が立ちはだかります。
任天堂は「マリオ」「ゼルダ」「スプラトゥーン」「どうぶつの森」といった強力な IP を多数抱えており、これらを遊ぶには Nintendo Switch 2 の購入が事実上必須です。ソニーも独占タイトルを拡充していく方針を打ち出しており、PS5 も同様に「持っていないと遊べないゲームがある」ハードになりつつあります。
Sony Pulls Back From PlayStation Games on PC – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-03-04/sony-pulls-back-from-playstation-games-on-pc?embedded-checkout=true
PlayStationは今後PC向けにストーリー重視の独占タイトルを販売せずPlayStation独占タイトルのままにする – GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20260519-sony-pull-back-playstation-exclusives-games-pc/
独占タイトルの存在は、メーカー間の競争を促し、結果として質の高いゲームが生まれるという意味では市場を健全にする側面があります。しかし消費者の立場から見れば、遊びたいゲームのために複数のハードをそろえなければならないということであり、トータルの出費はますます膨らんでいくことに。
PC やスマホで安く遊べる時代になったにも関わらず、結局ゲーム機を買わざるを得ない。独占戦略はコスパの悪化に拍車をかけているのです。
ゲーム業界の明日はどっちだ

かつてゲームは、老若男女が手軽に楽しめる『庶民の娯楽』でした。「Wii」が世界中のリビングに広まったのも、「PSP」を持ち寄ってモンハンに明け暮れたのも、その手軽さと安さがあったからこそです。
しかし今、ゲーム業界は高性能化・高価格化の道をひた走っています。ハードもソフトも値上がりし、オンライン サービスの課金が重なり、独占タイトルが複数ハードの所有を要求する。ゲームはいつの間にか、「初期投資が大きく、継続的にお金がかかる趣味」に変わりつつあります。
もちろん、日本語専用モデルの投入やサブスクリプション型サービスの充実など、メーカー側も手頃な選択肢や付加価値を用意しようとする動きはあります。また中古ソフト、ダウンロード セール、インディー ゲーム、サブスクリプション サービスを活用すれば、今でも安く遊ぶことも可能でしょう。
それでも全体の趨勢 (すうせい) として、ゲームの敷居が上がっていることは否めません。
「ゲームはコスパのいい趣味」。私はもう、この言葉を短絡的には言えなくなってしまいましたね。




